唄:IA下北駅を降りてすぐ右へ行ったところになんか狭い階段があってその下でホラ釘バットがひとつ、ぽつりと置き去りにしてあって「こんちは」って声かけたら 「こんちは」って返ってきたあ、こいつ 喋るタイプのバットだな…って思ったから とりあえず家に持ち帰るのさこれでしばらくは時間もつぶせるだろと簡単に考えてしまったこと自体が 運の尽きさ退屈な日々の中で僕は何度もそう願っていたよ案外平和な世界で少しの何かが起こることを傍若無人な過去に捕らわれて動けない自分ですら隠してしまえるようなこと どこかで期待したよそれから何かが 動き出したのは明らかだった部屋に何者か、侵入の痕跡が…あれだけ口数多かった この釘バットだって最近じゃもう めっきり喋らなくなってしまったあ、こいつ 何か隠してるんだな…って思ったから とりあえずゴミとして 捨てちゃおう最低な日々の中で僕は 何度も話しかけたよいざ手放す瞬間になると なんだか思い切れなくて気づきゃバットを握りしめたまま 僕は走り出していたよこうなりゃ何の組織だろうと なんでも逃げ切ってやる彼女を追いつめたのは かつていじめっ子だったA子さん見下した目でただ バットを寄越しなさい と言い放つ折れそうになる心の中で 僕は何度も願っていたよいつかコイツを殴り倒せる日が訪れることをふざけた感じの声で もういいよ とバットが言うそんな声も耳に届かず 僕はただ息を整え 前を見据えてバットを握る負けフラグを横目に 僕は叫ぶのさ何度も願っているんだ